今日はこの度、日向珈琲の新定番としてリリースした「GAP ROAST|ギャップロースト」について、ちょっとした開発秘話を書いてみようと思います。
【GAP ROAST|ギャップロースト】のテーマは、「浅煎りと深煎りの共存」。
コーヒーが持つ本来の果実感を残しつつ、深煎り感のボディやコク、苦みも同時に出現させる焙煎構想をしばらく持っていました。
本来、焙煎の観点において果実を彷彿させる明るい酸は、焙煎が深くなるにつれ損なわれるものです。
そう考えると、浅煎りと深煎りの共存というテーマは、対局にある二つの性質を同時に行うという常識の外にあるものになります。
焙煎の観点からすると、真逆の性質を持つこのテーマをどうやってクリアしたかを記事にしてみました。
普段、焙煎の話はすごくマニアックで、一般向けには伝えてないのですが、今回ばかりはちょっと知ってもらいたいと思いまして。
できる限り、難しい言葉を使わず、日常に喩えてお伝えできたら幸いです。
この記事を書いたスペシャリスト
SCAJ-Roast Masters Team Challenge2021にて、史上初のダブル受賞。
審査員特別賞1位🥇オーディエンス賞1位🥇
3年間のオーストラリア留学を経てコーヒーの道へ。
日本スペシャリティコーヒー協会(SCAJ)認定コーヒーマイスターで、焙煎士として大会日本一の経験
現在は「日向珈琲」のメインロースターとして、コーヒー豆の仕入れ、焙煎、抽出、デザインまで全て一貫して行なっております。
従来の焙煎とは全く異なる革新的な焙煎手法「GAP ROAST」の確立に力を注いでいます。
GAP ROAST|ギャップローストとは
焙煎度の判断基準を考え直す
焙煎度は表面の色だけでしか判断されない
みなさん、普段、焙煎度を見てコーヒー豆を買われていることがほとんどだと思います。
僕ら専門店側も焙煎度は、コーヒー豆をオススメする上で、まず初めに伝える部分です。
焙煎度って、言ってしまえば、コーヒー豆の表面の色味で「これは浅煎り」「それは深煎り」なんて話してますよね。
でも、よく考えてもらいたいんですが、同じ表面の色でも中の火の通り加減って、それぞれ違うと思いませんか?
例えば、焼き肉を例に出すとわかりやすのですが、強火で一気に焼くと表面が焦げているのに中に火が通ってないこともあれば、じっくり弱火で焼くと、外がそんなに焦げていなくても火が通っている。
こんな感じでコーヒーも焙煎度合いを見た目だけで判断するには、本当はちょっと情報が足りないとも思うんです。
同じ焙煎度でも火の通り方は違うことはしばしば
僕ら焙煎士(ロースター)は、焙煎プロファイルと言って、焙煎機内の窯の温度(厳密には豆の温度)を計測して、データに残してたりします。
生豆を投入するところから、煎り出しするところまでの温度データを見たら、だいたいどんな焙煎なのか想像できたりするんですよ。
なので、コーヒー豆内部の水分量、つまりちょっと乱暴ですが、コーヒー豆内部の火の通りなんかも気にしていていたりします。
お店ではわざわざどんな感じで火が通ったかなんてお伝えするよりも、結果「どんなフレーバーがするか」が重要。
結果だけを伝えることになるので、あくまでも豆表面でわかる視覚的な情報と合わせて、香りや味の話をするのが一般的でした。
しかし…
GAP ROAST|ギャップローストで目指したもの
浅煎りと深煎りの共存
ここでようやく本題なのです。
本来は焙煎時の火の通し方について、お店で伝えることはありませんが、こと「GAP ROAST|ギャップロースト」に関してはここに触れる必要が出てきました。
なぜなら、ギャップローストはコーヒー豆の表面と内部で焙煎度の違いを意図的に作ることで、表現の幅を広げた手法だからです。
コーヒーの個性、果実感を残しながら、コクや甘みなどを引き出すためにやってみたことだからです。
スペシャリティコーヒーにおいて、個性と表現されるのは浅煎り〜中煎りでのアロマ、フレーバーが大半ですよね。
でも、深煎りにした時に独特の香りがしたり、強く明確なボディ(質感)や甘さなどもまた大きな違いがあります。
僕が焙煎士として一つ目指したかった形は、その果実感として表現したアロマ、フレーバーに加え、深煎りで感じられるようなハッキリとした質感と甘さ、独特の香りを同時に引き出すものです。
特にエチオピアのナチュラルを深煎りにした時の独特の香りを「野生味」を活かしたGAP ROASTをずっと作りたいと思ってきました。
矛盾する真逆の性質を出したい
でも、これって冒頭で書いた通り、本来は真逆の性質を持っているんですよ。
浅煎り→コーヒー本来の果実感ある個性を引き出す
深煎り→コーヒーらしいコクや甘みを引き出す
コーヒーは焙煎時間が長くなれば、比例して焙煎度合いが上がっていきます。
焙煎が進めば、その豆が持つ個性が弱まる代わりに、チョコレートやキャラメルなどの風味、コク、甘みが出てきます。
そう考えると、浅煎りと深煎りでやりたいことは、どちらかしかできなさそうですよね。
でも、それをやりたかったんですね、愚かなことに。笑
それを体現するために取り組んだことは以下です。
GAP ROAST|ギャップローストのための焙煎設計
①高火力、短時間焙煎でフレーバーの出現を最大化(浅煎り要素)
②コーヒー豆表面のキャラメライズ(深煎り要素)
個性(果実感)をしっかりと表現するには、短時間で一気にコーヒー豆内部へカロリーを加える必要があります。
最初は安易に「高火力で短時間焙煎でちょっと表面焦がす感じでいけそう…」なんて思っていました。
従来の浅煎り、中煎り、深煎りの焙煎プロファイル、つまり時間/温度帯で考えて調整を行っていました。
でも、そう甘くなかったんですよ。
従来の焙煎レシピの応用では全くできないことが判明
・フレーバーは出現するが、コクも甘みも苦みも出ない
・深煎りっぽい、コクや苦み甘みは出てもフレーバーが失われる
・良くも悪くも両方の側面を持つ中煎りに落ち着く
当然といえば、当然。
真逆の性質のものを同時にやろうとするわけですから、浅煎り、深煎りどちらかの特徴か、もしくはほどよくバランスの取れた中煎りにしかなり得ません。
僕が目指した焙煎はもっとハッキリ、明確に両側面の特徴が出ている焙煎。
「これじゃない…」と思いながら、4ヶ月が経ち諦め状態でした。
もはや、アイディア止まりでそもそも「不可能」の烙印を押していたと思います。
しかし、たまたま偶然が重なって、完成の瞬間が訪れたんです。
固定概念の外に答えがあった
結論から先に申し上げると、普段は絶対にしない設定値で強制的に焙煎をしなければならなくなり、偶発的にGAP ROASTの原型が完成しました。
普段、あまり営業中に焙煎をしないのですが、その日どうしても緊急でコーヒーを焙煎しなければならない状況になって。
その日は天気が芳しくなくかったので、「あんまりお客さん来なそうだし、今なら…」と焙煎機に生豆を投入しました。
ちょうどガス圧を触るタイミングで、お客さんが来て、やむ終えず接客に入りました。
遠目で焙煎機の様子を見ながら、ソワソワしながらオーダー確認したのですが、不運にも一番提供の時間がかかるハンドドリップ。
それでも丁寧に一杯入れて、お湯を入れ終わったタイミングで焙煎機に向かいました。
すると、本来はその分量では絶対しないであろう高火力設定で、焙煎終盤を迎えるタイミングでした。
「もったいないことしたなぁ…(その豆を廃棄するつもりで)」
と思ってたんですが、結果的にこれがまさかのGAP ROASTの原型となりました。
以下、当時の実際の豆の様子ですが、まばらな火の通りで色目もバラツキが出ています。
固定概念とは恐ろしいもので、「焙煎とはこうあるべき」と考えていた外側に答えがあったようです。
テイスティングしたら、ちゃんと果実感、浅煎りらしい個性の発達があるのに、深煎りのようなコクや独特の風味もある。
もちろん、毎回どんな焙煎をする時もしっかりと焙煎データは取ってあります。
そのデータとともに自分の鼻と舌を信じてでき上がったのが、今回の「GAP ROAST|ギャップロースト」となりました。
ブレンドのような複雑さのあるシングルオリジン
飲んでみるとすごく不思議なフレーバーのコーヒーです。
僕が目指していた強いボディや甘さを持ちながら、華やかな果実感が出現していました。
エチオピアの豆が持つレモンのような果実感をしっかりと残しつつ、ブランデーのような余韻とともに深煎りのような野生味や甘さも感じられます。
シングルオリジンなのにまるでブレンドが持つような複雑でクセになるような味わいです。
オンラインストアで販売開始
こんな感じで結構、手間と時間を使って出来上がったコーヒーです!
よかったらご賞味くださいね。
※追記
GAP ROAST seriesの第二弾もリリースしました。今回は宮崎らしい南国トロピカル。
ぜひ、ご堪能ください。全国どこでもポスト配送させてもらっています。